2007年08月23日

お久しぶりなわけで。

14日完成を目標にしていたらいつのまにか23日だった小説です。
もうちょっと書くペースをアップしたいです。ちょっと叶わぬ願いです。
カテゴリ「小説と詩を作ってみた」にある2005年8月14日、2007年2月25日の小説とわりと繋がっています。

うん、そういう感じ。


それは、ある旅人の書いた旅行記には記される事が無かったお話。
何故ならこの話の語り部は、旅人では無いのだから。


別に私は天才なわけではない。
ただ、小さい頃から努力をしてきただけ。そして努力が好きだっただけ。
「凄い」と言われる事もしていない。
努力せずに地位は得られないし、維持できない。皆がそこにいるのも努力の賜物じゃないの?
そう言ったら彼女は「やっぱり凄いよ」とまた言った。
「私の嫌いな物を好きだと言える人は、私にとって凄いと思える人なんだ」
彼もまた同じような事を言った。
「俺には真似できねぇな、それ。俺、努力とか嫌いだもん」
それ以外の受験者の人達は、私を見ると睨みつけたり、からかったり、笑ったり、完全に私を見下していた。
十二歳の女の子と同じ場所にいるのがそんなに嫌なのか、十二歳の女の子が受かるはずも無いと思っているのか、それとも私が一人でいたのでからかい甲斐があったのか、単に目障りなのか。
私と一番歳が近く、親切に対等に扱ってくれたのは、このムーン=アナリシスとサンサ=グエンだけだった。
そしてこの年の『小魔物と小魔物の能力の使役者』検定試験の合格者は二千五百十八人中、私と彼らを含めた四人だけだった。
……これでも多い方らしい。何せ、この試験の合格者は発見され次第、何人ものインタビュアーが攻めかけて、当分の間は行動を観察されるほどの難易度なのだから。
特に私は『史上最年少の合格者』『天才児現る!』『今年の萌え!美少女魔物使いアルードラちゃん』とデカイ見出し。
つきまといも従来の二倍。それはもう、言葉では言い表せないほどうっとおしかった。
萌えって何、萌えって。

だがその一年後には、マスコミの群れはその年の合格者に目を向け、走り出していく。
四年も経つと、あれは幻だったのかと思ってしまうかのように目の前が閑散となる。
ちっとも寂しく無い。むしろ清々した。他のものに興味を持ってくれて感謝する。
十六歳になった私は、あれから普通に魔物ハンターの職業に就いた。魔物使いの資格のお陰で相棒もできた。
街の治安を乱して迷惑をかける魔物や小魔物を駆除する仕事をしている、という実感も出て、その仕事をする自分を誇れるようにもなってきた。
その矢先の出来事が、これだ。

私は自分の肌より少し濃いぐらいのベージュの髪を二つに分けてくくり上げ、朝焼けのオレンジ色が薄まろうとしている時間に宿を出た。
「町長さん、何だか過激だったわねぇ。目も若干イっちゃってたし、何だかネズミに同情しちゃうわぁ」
宿の前に立っている、この空色のペガサスは私の相棒だ。自称“身体は雄で心は雌”その名はハニータルトディッシュ。
あまり私と合わない性格をしているのだが、移動に便利なので一緒に居てもらっている。
ただ、今回の依頼では必要ないのでここでお留守番だ。
「でも、公害ネズミを見かけたら容赦なく潰して。仕事だから」
念のため、そう言っておく。
「それくらい、分かってるわよぉ。じゃあねアルードラ。いってらっしゃい」
「いってきます、ハニ太」
「そのあだ名はやめてぇぇ!!」
名前が長いのは非常に面倒臭い。フルネームで呼ぶより、こっちの方が楽だ。

朝から昼にかけて活動する、公害ネズミの退治がこの日の仕事だった。
この仕事を依頼してきたこの町の町長は、この増殖した公害ネズミに随分と迷惑を被っていたようだ。
『時間はかけていいから、この町から一切の公害ネズミを消してくれ。見つけ次第有無を言わさずぶっ殺せ!』
という過激な発言を私に聞かせる程、公害ネズミを嫌っていた。
それは態度だけではなくお金やコネにも表れていて、町長はわざわざ今回の為に経費でネズミ駆除剤や捕獲用の罠を購入しておいてくれていた。
こちらでも一応用意したのだが、町長はその量の何倍にもなる恐ろしい数の駆除剤や罠を私に見せてくれた。
町長の執念が結晶となったかのようだった。だが、まぁ、助かる。
さらにハンターの人選にも執着したようで「確実に仕事をこなす人間をよこしてくださいませんか?」という敬語ながらドスの効いた電話が依頼の話を受けた次の日にかかってきた、と上司が言っていた。
きっちり仕事をこなしてほしいのならこいつを寄越すのが一番良いだろう、との事で私がこの仕事を請け負う事になったのだ。
とりあえず私は昨日、町中のネズミの出そうな場所に罠を仕掛けておいた。周辺住民には了解を頂いてきたらしい。
罠は子供が誤って入らないような大きさの箱型タイプだ。一度入ったら出られないような構造になっている。
しかも小さいくせに防音がしっかりしている。
文句言われようが助け呼ばれようが見逃してと哀願されようが、聞こえないので罪悪感は湧かない。
仕掛けた罠の箱は透明なので、ネズミがちゃんと罠にかかったかどうかの確認は容易い。
ただ、それは罠にかかったネズミが助けを求めている姿をダイレクトに見てしまう事にもなるので、その辺りは罪悪感が芽生える事もあるかもしれない。
こういうものは後に残す感情もなくクリーンに行きたいものだが、できない事もあるのだ。
だがこの件の場合、やっぱり透明にしていて良かったと後の私は思う事になる。

罠に猫がかかっていたのだ。
私はその猫の入った罠を目線の高さまで持ち上げて、透明な壁越しに猫を観察してみた。
金色の体には毛の一本さえ見られない。まるでこの猫自体が黄金でできているかのようだ。
大きさは猫にしては細すぎる。手足はまるで棒切れのようだ。だが、腹だけはえらくふっくらとしている。妊娠してるのだろうか。
瞳は無い。代わりに抉り取られたような空洞があるだけ。そして、外見に合わない、質素な赤い首輪をしていた。
「マネキネコ族の一種、コガネマネキネコ。虐待の痕跡あり。盲目の状態。飼い猫。妊娠中」
そう呟く。
コガネマネキネコは古くから絶滅危惧種として扱われ、密航や売買が禁じられているはずの小魔物だ。
しかもこの猫は目を抉り取られている。立派な虐待だ。
猫は罠の中を暴れまわっている。お腹の子供は大丈夫だろうか?
わーわー叫びまくっているようで、口を何度も開閉させているが、防音設備が素敵すぎるために聞こえない。
絶滅危惧種が何でこの町中にいるのだろうか。答えは簡単だ、この町の住民が飼っていたのが逃げ出したのだろう。
種類が種類なので、このまま保護する事にした。

別の罠にはちゃんと公害ネズミがかかっていた。しかも複数。良い感じだ。
途中、見かけた公害ネズミはこれも町長が用意していた、ネズミ駆除剤で迷わず殺しておいた。
スプレーするとちょっとは暴れるがまぁ秒殺という感じで殺っちゃう事ができる。それが届かない時は普通にナイフを投げた。
周辺住民の主婦Aさん(仮)がそれを見て叫んでいたが、聞こえないフリをしておいた。大丈夫、後で清掃員が来る予定だ。
私は公害ネズミの引っかかった罠を幾つか抱え、宿に戻ってくる。
ハニ太の足元は真っ赤だった。どうやら、何匹か公害ネズミを潰したらしい。
宿の主人の奥さんのBさん(仮)も叫んだようだがハニ太も知らないフリをしておいたらしい。
ハニ太の横には何人かのおっさんが立っていた。
制服からすると清掃員のようだ。一生懸命ハニ太の周りを掃除してくれている。
「ネズミ、捕りました」
そのうち一人のおっさんは「ありがとうございます」と言ってネズミの入った罠を解体してネズミを取り出し、おっさんの隣にある、おっさん以上に大きい、車輪のついた箱に突っ込んだ。
罠はまた私がネズミの出そうな場所に仕掛けてくる。一応駆除の専門家なので、その辺りには詳しいのだ。
「あら、なぁにその猫。ゴールデンで綺麗ねぇ」
私の抱えた猫入りの罠にハニ太が気付いた。
ハニ太に事情を話すと、しばらくこの猫はハニ太に預かってもらう事になった。
「だって仕事の邪魔でしょー? その子は仕事が終わったら愛護団体の方に引き取ってもらいましょう」
「よろしく、ハニ太」
「そのあだ名はやめてってばぁぁ!!」
ハニ太を無視する。
とりあえず罠はまた使うので、解体して猫を取り出す事にした。
罠に入れっぱなしというのも子供に良くないし。
この素敵防音設備な箱をこじ開けようと手をかける、その時。

私の背後で、どすんという音がした。
振り向くと、一頭の黄金色の鬣を持つ、翼の生えたライオンがそこにいた。いつのまに、と思ったが、空から降りてきたのだろう。
……ツバサネコ族の一種、シロツバサライオン。小魔物の中でも最上級の大きさだが、性格は至って温厚。
雌でも鬣がある事が他のライオンとの相違点。爪と牙は十分に人を殺せるほどであり、慎重に扱わないといけない。
そのライオンの上には人が乗っていた。テンガロンハット、黒髪黒目、象牙色のジャケットに黒いキャミソールの女性。
女性はこちらを……いや、私の持っている罠を指差して「いたぁ―――――!!!」と叫んだ。
「あなたはこちらのコガネマネキネコの飼い主ですか」
私が尋ねると、女性は「いや、違うよ」とライオンから降りながら答えた。
「私はそちらのコガネなんたら猫の飼い主からその猫の捜索を依頼された探偵、ミズミ・キャイオリー。はいこれ名刺」
ミズミと名乗る女性が差し出した名刺には、彼女の名前と住所と職業名が書いてあった。
“キャイオリー探偵事務所:主に人捜し、物探しを中心とした事務所です”とある。
探偵を雇ってまで猫の捜索。飼い主は、逃げた金づるを必死に探しているのか。
とりあえず、彼女が自己紹介をしてきたから、私も自己紹介をする事にした。
「私はアルードラ=アターラ」
私がそう名乗ると、彼女は「あー、知ってる」と言った。
「史上最年少で魔物使い試験に合格した子でしょ? あの年の試験は私にとって特別だったからね、顔と名前は自然と目に焼きつくよ」
そう言われるのは慣れているので、私はとりあえず頷いた後で話を続けた。
「私はこのペガサスのハニータルトディッシュと一緒に、小魔物のハンターをしています。
このコガネマネキネコは公害ネズミ捕獲用の罠にかかっているところを私が保護しました」
だからといって、猫をこの探偵に引き渡すには少し問題がある。
「あなたの雇い主について幾つかお尋ねしたい事があります。ですが今は仕事中ですので、後ほどお時間いただけないでしょうか」
目の抉れたコガネマネキネコの入った罠を抱えて、私は彼女をにらみつけた。
「ごめん、無理」
彼女は即答した。
「猫を見つけたら速やかに捕獲し早急にこちらへ渡す、大事にはしない、捜索が長引くと報酬も減る、そういう依頼内容なんだ。だから、無理」
「“速やかに てきぱきさっさで 高い金”……つまりはそういう仕事」
彼女の説明に、ライオンが口を出す。あれは川柳というやつか。
「あなたたち、お金目当てなんですね」
大きく溜息をついたハニ太の目が、若干厳しくなった。
「違う違う、依頼に制限時間があったり、探してるモノがモノなだけ」
ハニ太の一言に弁解を加えつつ、一瞬だけ彼女は私の腕の中の猫を見た。
猫は未だ罠の中で暴れまわっている。
「今、短時間でなら話はするよ」
「断ったら?」
今は仕事中だから、別の事に時間をとるわけにはいかない。
できるなら断りたい。この人に待ってもらって、後で話をしたい。
「どうしようかな?」
そう言う彼女の後ろでは、一頭のシロツバサライオンが爪を立てていた。
遠まわしな脅しだ。それを回避する方法は、ある。
「ハニ太」
「アルードラ、アタシはこの世で一番馬刺しが嫌いなのよ。馬は崩すもんじゃないのよ。分かってるわよね?」
ハニ太は何かを察知したようだ。声が少し震えている。
「崩して美味しかったから馬刺しって料理があると私は思う」
「冗談言わないで、アルードラ!」
ハニ太の顔に冷や汗が流れているのを無視する事にした。
「冗談じゃない」と言って、私はハニ太の鞍についている荷物入れの袋に罠を突っ込む。
仕事が終わるまで、よろしく。あなたがこの猫を預かってもらう事になっているのだから。
終わったら速攻で罠から出してやらないといけない。
「イヤアアア!!アルードラの大馬鹿アアア!!」
ハニ太が何か叫んで飛び出したけど、無視する。
私は一気に走り出して、公害ネズミの罠の回収に向かった。
「ヴィナ!」
「了解済み」
慌てて彼女がライオンに乗り込もうとする。それはひどく馬鹿らしく、私の思いつきを台無しにする事だ。
「ミズミ=キャイオリーさん、お話をしましょう。仕事しながらでよければ」
私は彼女の腕を掴んだ。行動は強制させるのが一番だ。向こうに合わせるのは面倒臭い。
できればハニ太にはライオンから逃げ切ってもらい、どこかで隠れて罠を解体し、猫を保護しつつ私の所へ戻り、罠を返してほしい。
そんな事ができる程、器用なオカマではない事は私も十分理解しているのだけれど。


少し離れた場所では、どでかいホースで駆除剤を撒き散らす、清掃員のおっさんがいた。
私は罠を仕掛けては回収し、その間にミズミ=キャイオリーと会話をしていた。
「まずは依頼人についてお聞きしたいのですが」
急ぎたいので、相手の目も見ずに話しては聞き、罠を見る。
溜息の音が聞こえたけれど無視をする事にした。
「誰にも話すなって言われてるから話さない。口止めされてる」
探している猫の種類が種類だから、当然、口止めもするだろう。
私は質問を変えた。
「依頼人はどのような人でしたか?」
「あー、依頼人には会った事がないんだよね。私と直接話したのは、依頼人の秘書さん」
秘書がいる、という事は、依頼人は結構な地位にいる人物のようだ。政治家か社長?
「探している猫については、何か言ってませんでしたか?」
「写真を貰った時に盲目だって聞いた。依頼人が飼い始めた時からこの状態らしい。……それだけだよ」
「それは嘘のようでしたか、本当のようでしたか?」
「知らない。秘書さんは眉一つ動かさなかったし……威圧感は凄かったけど」
また溜息をつく声が聞こえた。それから「ヴィナどうしてるかな」という独り言も。
この人は完全に使い走りのように扱われている。依頼人の猫に対する愛情はよく分からない。
とりあえず、もう一つだけ質問をしてみる。
「あなたはこのコガネマネキネコについて、どこまで知っていますか」
ここで、そう言いながら私は彼女の瞳を見た。
彼女は「私?」と自身を指差し、困惑の表情で私の方を見つめ返す。
「あなたです。どこまで知っていますか」
「んー、あんまり知らないなぁ。秘書さんから『数が少ない貴重な小魔物』って言われたのと、さっき現物を初めて見たぐらい」
やはり彼女は使い走りだ。コガネマネキネコについて知らないのは向こうにとって好都合だっただろう。
「コガネマネキネコは、売買が法律で禁じられている絶滅危惧種に指定されている小魔物です」
私は彼女にコガネマネキネコについて説明した。
コガネマネキネコの瞳や爪はは宝石の一種となっていて、体も黄金と酷似した成分でできている。少し加工すれば完璧な金になるのだ。
かなり高額な値段で売られているため乱獲が後を絶たず、古くから絶滅危惧種として扱われていた。
おそらくあのコガネマネキネコの目も、売り飛ばすために抉り取られてしまったのだろう。
密猟者から保護したコガネマネキネコは、大抵のものがそうなっているのだ。
だからコガネマネキネコは個体での売買が禁じられている。体の一部の売買も禁止させるように動いている小魔物愛護団体も存在する。
だが、密猟は今でもどこかで私達の警戒網を掻い潜って行われているはずだ。何せ、彼らは“生きた宝石”なのだから。

話を聞いた彼女は「あの猫そんなに凄いの!?」非常に驚いていた。
「虐待の痕跡がある以上、小魔物に携わる仕事をする者としては放っておけません。あのコガネマネキネコの意思にもよりますが、私は彼女を保護し、本部へ連れ帰った後に愛護団体で引き取ってもらおうと思っています」
「それはちょっと、私的に困るんだけどなぁ。絶対、報酬少なくなるし」
彼女はゴネだした。
「あなたも魔物使いなら、金銭と小魔物のどちらが大切かは比べるまでもないのでは?」
ここで彼女が金を取れば、私はこの人の意思とは無関係にコガネマネキネコを本部へ連れて帰る。
場合によってはあのシロツバサライオンも一緒だ。
「分かってる。私だってヴィナがそうだったら怒り狂って相手の事を調べ回って精神的に抹殺するよ、もちろん。
今の状況も分かってる。困るけどしょうがないよ。家のローンどうしよう……あ、ヴィナ!」
急に、彼女は空を見上げてそう言った。
私も見上げると、ヴィナとか言うシロツバサライオンの隣にハニ太の姿があった。何しているの、逃げたんじゃなかったの?
「アルードラ、大変よ、猫ちゃんが……」
地に足降り立つと、ハニ太は私に罠を見せてきた。
罠は原型を留めてない、という程ではないが壊れている。だがその中にはコガネマネキネコが堂々と寛いでいた。
ただ、引っ込んだ金色の腹にはまた小さな三つの金色の物体が引っ付いていて、それはおそらく、彼女の……
「生命の誕生。良いものを見せてもらった……」
シロツバサライオンは余韻に浸っているようだった。
コガネマネキネコは、出産していたのだ。
「え、生まれてる!?」
ミズミ=キャイオリーは驚いた後に「おめでとうございます!!」とその顔のまま大きな声で言った。
「……おめでとうございます」
私も母猫に祝福の言葉をかける。
「ありがとうございます…」
防音の罠が壊れているので、コガネマネキネコの言葉はこちらに聞こえてくるようになった。
盲目の母は細い体でもしっかりと子供を産めたようで、この辺りに母の力の偉大さが思い知らされたような気がする。
ただ声は若干掠れていて、疲労も顔に出ている。どこかで休ませてやらなければ。
「一度、宿に戻ろう」
ミズミ=キャイオリーも今は猫の体を優先したようだ。
反対する者はここには居なかった。私も仕事を途中で切り上げる事にする。


宿に着くと、まず猫達の寝床を速攻で作り上げた。
と言っても、手頃な大きさの籠を用意してもらい、中に清潔な布を敷いただけなのだが。
「あなた方についてのお話は、ハニータルトディッシュさんから聞きました」
母猫は寝転ぶとすぐに、私達にそう言った。
顔は真正面、しかし私達の誰に向けるでもなく。そして言葉に抑揚も無く。
ちなみにハニ太とシロツバサライオンには外に出てもらっている。私の取っているこの部屋には入るには大きすぎるからだ。
「説明もせずに、罠から出さずに、あなたをパニック状態にし続けて申し訳ありませんでした」
私は母猫に非礼を詫びた。
もっと早く罠から出してやるべきだった。ストレスは母体に悪いというのに。
「別にいいです。あの人のところで産むよりずっとマシ」
表情一つ変えずに、母猫は言った。
あの人、というのはやはり飼い主の事だろうか。
「あなたは、あなたの飼い主の事が嫌いですか」
私は母猫にそう尋ねてみた。
すると、母猫は少しだけ俯いて「昔は、良い人だったんですよ」と小さな声で言った。
「あの人は目の見えない私を引き取り、可愛がってくれた。でも、あの人は変わってしまった」
彼女の目は、今の飼い主に抉り取られたわけでなかった。ミズミ=キャイオリーの依頼人の秘書の話は本当だったようだ。
「あの人はもう昔のあの人には戻れない、そう思って私はあの家を出ました。もうあの家に未練はありません」
彼女ははっきりとそう言った。凛とした表情をしている。
私はミズミ=キャイオリーの方を見た。彼女はゆっくりと息を吐いて「分かってる」と言い、
「コガネマネキネコは小魔物ハンター本部に送られた。早く取りに行かないと愛護団体が来ちゃうって、秘書さんにでも言っておくよ」
彼女はコガネマネキネコ達に笑いかけ、部屋の扉の方へ向かった。
「じゃあ、何かあったらキャイオリー探偵事務所にご依頼をよろしくね」
名刺は絶対に失くさないでね!という台詞を残して、扉の向こうへ彼女の姿は消えた。

「私達はこれからどうなりますか」
ミズミ=キャイオリーが消えた後に、母猫は私に質問を投げかけた。
「まずは小魔物ハンターの本部に、あなたと共に保護されます。その後は私が連絡して、愛護団体の方に引き取ってもらおうと思います」
ただ、引き取ってもらっても、彼女を野生に帰すのは難しいだろう。
彼女には目が見えないというハンデがあるし、子猫達も小さすぎる。
でも、愛護団体の方なら悪いようにはしないだろう。何たって、小魔物を愛護する団体なのだから。

その日の仕事は途中で切り上げ、私はコガネマネキネコの親子を連れて本部に戻った。
幸いにもこのネズミ駆除は長期にわたる仕事だ。また明日に今日の分を頑張るまで。


その後、コガネマネキネコの飼い主は本部に来なかった。
盲目のコガネマネキネコの親子は、二日後に無事に小魔物愛護団体の方に移送された。
妙に早いなと思いつつも、その間に公害ネズミの駆除は終了。
私も本部からまた新しい仕事を貰い、こなしていく……それが続いて二ヶ月経った、思い出深いある小洒落たカフェでの事。

「へー、そういう事」
私の目の前にいる、一年ぶりに会う二人の友人の片方がそう言って緑色の眼を開いた。
僅かに跳ねた、ギリギリでショートカットな感じの金髪。パンク系に属する、装飾が無駄に多い漆黒のジャケットの中にワイシャツを着た、この人物がサンサ=グエン。
その隣には、ニット帽を被った女性が座っている。肩まである黒髪の間から、右側だけ大きな月のイヤリングがはみ出している。
白いコートの下に青緑のタートルネックを着た、暢気な性格のムーン=アナリシスだ。
私は二人にこのコガネマネキネコの出来事を話していた。
理由は無い。それでも言うなら、さっきから私達が話題にしているのが“最近、自分達に起きた出来事”だったからだ。
「まぁ、でも、良かったじゃん。元気なんだろ、猫達」
「多分元気にしてると思う」
多分、がついているのは、愛護団体の方に輸送されて以来、私は彼女達に会っていないからだ。
今、彼女達がどうしているのかを聞いた事もない。でも、元気でいるだろう。
「アルードラ、その話に出てた探偵さんの名刺って持ってる?」
ムーンはミズミ=キャイオリーの方が気になるらしい。
「あるけど」
捨てる理由も特に無いので持っていたあの名刺を、私はムーンに見せた。
ムーンはその名刺をしばらく興味ありげに眺めている。
「何か心当たりでもあんの?」
サンサがそう訊くと、ムーンは頷いて、こう言った。
「前にそっくりな話を探偵の知り合いから聞いた事があってね……うん、やっぱりミズミだ。私の知り合い」
「!」
穏やかに笑って、ムーンは名刺にデコピンした。
驚いた。ムーンとミズミ=キャイオリーが知り合いだったなんて。
「お! 思わぬ繋がり」とサンサも呟いていた。
「十二歳の時に育ての親に引き取られた時に、一応義理の姉妹って関係になった人なんだ。今でも仲は良いよ」
と、言ったところでムーンは自分のアイスグリーンティーを一口だけ飲んだ。
「ところでさ、私はそれの続きっぽい話もミズミから聞いているんだけど、聞く?」
「聞く!」
私が何か言う前に、サンサがムーンに明るい声をぶつけていた。即答だった。
気にならないといえば嘘にはなるし、私もとりあえず頷いてみる。
ムーンは語りだした。

私の出会ったコガネマネキネコの母猫は、元々小魔物愛護団体の方に移送される予定だったらしい。
ところが、母猫が飼い主に愛想を尽かす方が先だったようで、移送される前に依頼人の家から逃げ出してしまった。
種類が種類なだけに、依頼人は焦り、物探し専門と言う探偵を密かに雇った。
そして町で最近急増していた公害ネズミを口実に、魔物ハンターも雇い、罠を大量に仕掛けさせた。
公害ネズミ達と共に、コガネマネキネコも罠にかける予定だったのだ。
罠にかからなかった時を考えて、魔物ハンターの方にはコガネマネキネコの話をせず、あくまでも公害ネズミの駆除のみを依頼した。
もし罠にかかった時には、そのまま密かにハンターにコガネマネキネコを持ち帰ってもらい、ハンター本部の方から小魔物愛護団体に移送してもらう。
その前にこちらの手元に戻ってきた時も、小魔物愛護団体に移送すれば良いのだ。
「それで、計画は実行された、と」
サンサが言った。
「内密に事を進めたかったから、この件は必要以上に他人に話さなかったらしい。依頼人についてもミズミに釘を刺していたし」
そういえば、ミズミ=キャイオリーも私に依頼人の名前は明かさなかったし、詳しく話せないようにと向こう側も気を使っていた。
話を半分も聞く前に、私は依頼人が誰だか分かってしまった。イライラさせるような奴だ。
それにしても、ミズミ=キャイオリーは口の軽い女性のようだ。それで探偵をやっていて良いのだろうか?
「変な計画」
私はそう口を零した。
その計画は穴だらけだ。コガネマネキネコの事を何も考えていない。
もし、コガネマネキネコが全ての事を暴露してしまえばこの事は内密には出来ないし、もし、私が性質の悪いハンターで、ミズミ=キャイオリーから守りきったコガネマネキネコをこっそり持ち帰って売ってしまったら彼らはどうするつもりだったのだろうか。
暴露しないという確証でもあったのだろうか?ミズミ=キャイオリーに話さなかっただけで何か対策を用意していたのだろうか?
後者のみ当てはまる事だが、それとも、彼らには売却ルートを確認する術があって、コガネマネキネコが確実にもう自分達の手元に戻ってこないと分かればそれで良かった……とか?大きくぶっ飛んだ仮説だが。
何にせよ、これは可笑しな計画だ。考えた人の頭の中を見て見たい。
「うーん、深い謎がでてきた」
顎に手をあてて、サンサがこの謎のように深く考え込んでいる。
私はこれ以上考えるのをやめる事にする。考えるのをやめて、サンサが結論を出すまで何秒かけるか計って眺めてみよう。
ムーンの方は最初から考える気など無かったようで、私より先にサンサをじっと眺めていた。
このサンサ=グエンという人物は、考える事に豪く長い時間をかける。魔物使いの試験の時もそうだった。
考えて、考えて、その結果、制限時間ギリギリに行動に移して得点を取っていた。
「変わってないね」
ムーンもまた、あの時を懐かしんでいたのかもしれない。
アイスグリーンティーを啜って、ゆっくりとした口調で私に話しかけた。
「ムーンもね」
彼女が纏っている独特の雰囲気は、そこだけ時間が遅れて流れているのではないかと思うほどゆったりとしたものだった。
それは今も変わっていない。
この二人は現在、自分の小魔物を連れて、この広い国の中を気の向くままに旅をしている。
それでも毎年、同じ日に小洒落た喫茶店に集まって、三人でお茶を飲むのは三年前から続けている“約束”だ。
私達は一年間に起きた出来事や、一年の間に出会った人との事を話す。
そしてまた旅に出て、仕事に行って、一年後にここでまたお茶を飲む。
この喫茶店にもまた一つの小噺があるのだが、それは機会があった時に話そう。
「すみません」
とりあえず、私はウエイトレスにカフェオレのお代わりを頼んだ。

お茶会はまだまだ続く。



……一応こういう事でした〜的な真相めいたものは考えてある。
ただ、入れるスペースが無かっただけで。
シナリオも随分途中でコロコロ変わってたから、矛盾めいたものがこれから出てくると思う。
その時は開き直ろうと思う(駄

気付いたらミズミが結構悪役側に回ってしまっていたorz
後で取り戻そう後で取り戻そうと思ってたら結局無理だったorz
しょうがないのでミズミ編も書こうと思った。でも今書いてるのは違う話。
……夏休みもとっくに半分過ぎたし、もうちょっと頑張る!


posted by 早月 at 23:40| 兵庫 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説と詩を作ってみた | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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